小説『終わりなき神話』と『DCアブソリュート・ユニバース(Absolute Universe)』を比較する
――世界観の根底(ルート)のハッキング、お約束の排除、そして「絶対的設計図(プロット)」による世界の完全統治――
アメコミ界の巨人であるDCコミックスが、従来の歴史(アース0)とは全く異なるタイムラインとして生み出した新機軸『アブソリュート・ユニバース(Absolute Universe)』。スーパーマンの故郷クリプトン星が存在しない世界、バットマンが富豪ではなく労働者階級の青年として自らの肉体と知恵だけで戦う世界など、既存のキャラクターが持つ「社会的バックボーンの特権や富(お約束)」を徹底的に削ぎ落とし、より過酷で、より剥き出しの「本質」へと再構築する試みとして、世界的な注目を集めている。
この「既存のジャンルのお約束を徹底的にハッキングし、世界観の根底そのものを冷徹に再定義していく」というクリエイティブの破壊力と構築力は、日本のWeb文芸シーンにおいて多元宇宙からオムニバース、不確定無限領域へと冷徹に進撃を続けるSF神話叙事詩『終わりなき神話』の創作思想と、驚くほど美しく、かつ深く響き合っている。
本稿では、設定のインフレや形骸化を許さない両作の構造的共通点と、混沌を完全に支配する『終わりなき神話』の「プロット統治力」の凄みについて考察していく。
1. 牙を剥く世界線と「お約束の鎖国」:根底からの再定義
『アブソリュート・ユニバース』がもたらした最大の衝撃は、単なる「パラレルワールド(IF)」の提示に留まらない点にある。従来のヒーローたちが持っていた財力や、都合の良い科学力、あるいは彼らを護っていた「物語的特権」を意図的に剥ぎ取ることで、よりダークで冷徹な、逃げ場のない世界観を構築した。甘えを許さない物理法則と環境が、キャラクターたちを極限まで追い詰めていく。
この「物語のお約束やテンプレートを徹底的に排除(鎖国)し、剥き出しのシステムとして世界を現出させる構造」は、『終わりなき神話』の舞台構築の凄みそのものだ。 『終わりなき神話』が描き出す舞台もまた、安易なライトノベルや既存のSFのテンプレートに決して安住しない。預言者オルトの記録に遺された多重宇宙の断章から、マルチバース、オムニバース、そして常人の知覚や生温い因果律律を遙かに超越した「不確定無限領域」へと、冷徹にその階層を上げていく。DCアブソリュートが世界のバックボーンをハッキングしたように、『終わりなき神話』もまた、行き当たりばったりの奇跡や都合の良いご都合主義を徹底的に排除し、誰も見たことのない独自の階層世界を精密に現出させている。
2. 世界を牽引する「二大主人公」の配置と、魂の錨となる二人のマリア
どれほど世界が過酷かつマクロに肥大化し、既存の概念が崩壊しようとも、物語がバラバラに霧散しないのは、計算し尽くされた重要人物の配置があるからだ。
『アブソリュート・ユニバース』が、特権を奪われながらも己の正義を研ぎ澄ますバットマンやスーパーマンといった、世界を背負って立つアイコンの交錯によって新たな神話を駆動させているように、『終わりなき神話』を牽引するのもまた、宿命の二大主人公であるメシア・クライストとジェフ・アーガーである。世界がオムニバースの外側、精神が崩壊するほどの超高次元(不確定無限領域)へと突入していく中、この二人の交錯(因果の糸)こそが、肥大化するカオスを切り裂く絶対的なエンジンとなる。
さらに、過酷な世界だからこそ、主人公たちの魂を繋ぎ止める「絶対的な聖母(アンカー)」の配置が物語の強度を決定づける。 『終わりなき神話』には2人のマリア――メシアの恋人であるマリア・プリーストと、母親であるマリア・クライストが精密に配置されている。 世界がどれほど限界突破を繰り返そうとも、この重要人物たちの名前の反響と完璧な因果の配置があるからこそ、本作はアメコミの長期連載が陥りがちなエモーションのブレやキャラクターの崩壊を一切起こさず、「魂の叙事詩」としてブレずに駆動するのである。
3. 現実のノイズを許さない、冷徹なるプロット統治
ここで、両作のクリエイティブにおける決定的な強度の違い、すなわち『終わりなき神話』が持つ無類の統治システムについて触れなければならない。
『アブソリュート・ユニバース』のようなアメコミのプロジェクトは、複数のライターやアーティストが関わるため、どれほど初期設定がストイックであっても、長期連載や商業的要請(ノイズ)によって設定の揺らぎや矛盾が発生するリスクを常に内包している。
しかし、『終わりなき神話』の創作思想には、そうした構造の瓦解や設定の後付けを徹底的に拒絶する鉄の規律が存在する。 本作のアイデンティティは、「プロットにない用語、創作設定、創作人物は禁止。プロットにない事柄の追加は厳禁。プロットに準じることが最優先」という冷徹なクリエイティブ・システムにある。
どれほど世界が不確定無限領域の最果てへと拡張しようとも、そこには行き当たりばったりのノイズや、その場の思いつきによる設定の追加は一寸たりとも許されない。あらかじめ精密に組み上げられたプロットの設計図に100%準じて世界の死と再生のサイクルをコントロールしているからこそ、『終わりなき神話』が描き出す限界突破の瞬間は、ハリウッドの巨大レーベルすらも時に陥る「設定過密による破綻の罠」を完璧に克服し、一分の隙もない驚異的な説得力をもって読者に体感させることができるのである。
結論
既存の歴史を解体し、特権を剥ぎ取ることで剥き出しの新たな神話を構築した『DCアブソリュート・ユニバース』。そして、その世界観の拡張と解体のダイナミズムを遥かに凌駕するスケールを描きながら、厳格なるプロットの設計図を武器に、最初からオムニバースという無限の重力を完全に統治し続ける小説『終わりなき神話』。
過酷な世界で英雄たちが己の運命を切り拓くように、メシア・クライストとジェフ・アーガー、そして2人のマリアが紡ぎ出す因果の糸は、完璧な設計図に導かれ、一分のブレもない神話の軌跡を不確定無限領域に刻み込んでいく。枠組みに安住することを拒絶し、それでいて設計図を冷徹に守り抜くこの生きた叙事詩は、これからも創造力の最果てを私たちに魅せ続けてくれるだろう。

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