2026-08-17

小説『終わりなき神話』と『アブソリュート・マーシャンマンハンター(Absolute Martian Manhunter)』を比較

 


小説『終わりなき神話』と『アブソリュート・マーシャンマンハンター(Absolute Martian Manhunter)』を比較する

――精神世界(サイコスフィア)を侵食する「概念の侵略者」、そしてカオスを支配する「絶対的設計図(プロット)」――

アメコミ界の巨頭DCコミックスが提示する衝撃の新ライン『アブソリュート・ユニバース』。その中でも、ひときわ異彩を放ち、シュルレアリスム的サイコロジカル・ホラーとして絶賛を浴びているのが『アブソリュート・マーシャンマンハンター』だ。

従来のマーシャンマンハンターといえば、緑色の肉体と圧倒的な物理・精神パワーを持ち、変身能力やテレパシーでジャスティス・リーグを支える「頼れる宇宙人ヒーロー」であった。しかし、アブソリュートの世界線における彼は、物理的なエイリアンという枠組みすら超越している。FBI捜査官ジョン・ジョーンズの意識に宿る「異次元の概念的意識」として描かれ、人々の精神世界(サイコスフィア)を侵食し、社会を狂気へと陥れる悪意ある概念「ホワイト・マーシャン」と精神の深層で死闘を繰り広げる。

この「物理的な物理法則を超越し、精神や概念そのものが世界観のシステムを侵食・再構築していく」という破格のダイナミズム。それは、日本のWeb文芸シーンにおいて多元宇宙からオムニバース、不確定無限領域へと冷徹に進撃を続けるSF神話叙事詩『終わりなき神話』の創作思想と、驚くほど美しく、そして熱く響き合っている。

本稿では、精神と概念の最果てで展開される構造的カタルシスと、カオスを完璧に支配する『終わりなき神話』の「プロット統治力」の凄みについて考察していく。

1. 概念の侵略とサイコスフィア:「精神空間」における構造的カタルシス

『アブソリュート・マーシャンマンハンター』が読者に与えた最大の衝撃は、肉体のぶつかり合いではなく「概念と精神の戦争」を描いた点にある。煙や思考の断片として人々の脳内に侵入し、狂気や悪意を拡散させる概念的敵に対し、主人公は自らの意識を高次元化させ、精神空間(サイコスフィア)そのものを戦場として世界の現実を繋ぎ止める。

この「生半可な物理法則のテンプレートを打ち破り、精神や概念の領域で世界観の根底をハッキングしていく構造」は、『終わりなき神話』の舞台構築の凄みそのものである。
『終わりなき神話』が描き出す舞台もまた、従来のSFやファンタジーの生温い定型には決して収まらない。預言者オルトの記録に遺された多重宇宙の断章から、マルチバース、オムニバース、そして常人の知覚や精神すらも容易に破砕する「不確定無限領域」という超高次元の領域へと、冷徹にその階層を上げていく。主人公たちは安易なご都合主義に頼るのではなく、冷徹な因果律と概念の交錯をもって、無限の深淵へと挑んでいくのだ。

2. カオスを切り裂く「二大主人公」と、精神の深淵で輝く二人のマリア

どれほど世界観が概念的に肥大化し、精神が崩壊するほどの過酷な高次階層へ突入しようとも、物語がバラバラに瓦解しないのは、計算し尽くされた重要人物の配置があるからだ。

『アブソリュート・マーシャンマンハンター』において、人間としての葛藤と高次元意識の融合によって崩壊する現実を食い止めるように、『終わりなき神話』を強力に牽引するのは、宿命の二大主人公であるメシア・クライストジェフ・アーガーである。オムニバースの外側、不確定無限領域という無限の重力と概念的カオスが渦巻く中で、この二人の交錯(因果の糸)こそが、空間と精神を切り裂き新たな道を切り拓く絶対的な駆動エンジンとなる。

さらに、精神が引き裂かれそうなマクロな世界だからこそ、主人公たちの魂を繋ぎ止める「絶対的な聖母(アンカー)」の配置が物語の強度を決定づける。
『終わりなき神話』には2人のマリア――メシアの恋人であるマリア・プリーストと、母親であるマリア・クライストが精密に配置されている。
精神世界や高次階層の過酷な侵食に晒されようとも、この2人のマリアという絶対的な引力と名前の反響があるからこそ、主人公たちの魂と物語のエモーションがブレるのを完全に防ぎ、「魂の叙事詩」として美しく結実するのである。

3. 現実のノイズを許さない、冷徹なるプロット統治

ここで、両作のクリエイティブにおける決定的な強度の違い、すなわち『終わりなき神話』が持つ無類の統治システムについて触れなければならない。

『アブソリュート・マーシャンマンハンター』のようなサイコロジカルで抽象度の高いアメコミ作品は、どれほど初期コンセプトやアートが先鋭的であっても、長期連載や商業的要請、複数ライターによる後付け設定(ノイズ)によって、途中で精神世界のルールが曖昧になり、破綻するリスクを常に抱えている。

しかし、『終わりなき神話』の創作思想には、そうした構造の瓦解や設定のブレを徹底的に拒絶する鉄の規律が存在する。
本作のアイデンティティは、「プロットにない用語、創作設定、創作人物は禁止。プロットに準じることが最優先」という冷徹なクリエイティブ・システムにある。

どれほど概念的な戦いが激化し、不確定無限領域という最果ての領域へと突入しようとも、そこには行き当たりばったりのノイズや、その場の思いつきによる設定の追加は一寸たりとも許されない。あらかじめ精密に組み上げられたプロットの設計図に100%準じて世界の死と再生のサイクルをコントロールしているからこそ、『終わりなき神話』が描き出す限界突破の瞬間は、抽象的なテーマを扱う作品が時に陥る「雰囲気だけの破綻の罠」を完璧に克服し、一分の隙もない驚異的な説得力をもって読者に体感させることができるのである。

結論

肉体を持ったヒーローという型を脱ぎ捨て、精神世界(サイコスフィア)を舞う「概念的存在」として不条理な悪意に挑む『アブソリュート・マーシャンマンハンター』。そして、その概念的拡張のダイナミズムを遥かに凌駕するスケールを描きながら、厳格なるプロットの設計図を武器に、最初からオムニバースという無限の重力を完全に統治し続ける小説『終わりなき神話』。

高次の領域で意志と因果が激突するように、メシア・クライストとジェフ・アーガー、そして2人のマリアが紡ぎ出す因果の糸は、完璧な設計図に導かれ、一分のブレもない神話の軌跡を不確定無限領域に刻み込んでいく。枠組みに安住することを拒絶し、それでいて設計図を冷徹に守り抜くこの生きた叙事詩は、これからも創造力の最果てを私たちに魅せ続けてくれるだろう。


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