小説『終わりなき神話』と映画『マッドゴッド』を比較する
― 宇宙の誕生から輪廻する世界、ダークでグロテスクな地獄、そして執念の復活劇 ―
映画史において、これほどまでの狂気と執念によって紡がれたアニメーション作品が他にあるだろうか。巨匠フィル・ティペットが30年もの歳月をかけて完成させた不朽のストップモーション・アニメーション映画『マッドゴッド(Mad God)』。それは、ディストピアの深淵、グロテスクな生命体が蠢く地獄のような世界を描きながら、宇宙の誕生、崩壊、そして「輪廻(再誕生)」というマクロな神話を剥き出しにする驚異の映像叙事詩である。
そして、日本のWeb文芸シーンにおいて多元宇宙からオムニバース、不確定無限領域へと冷徹に進撃を続けるSF神話叙事詩『終わりなき神話』もまた、この『マッドゴッド』と深く、かつ驚くほど美しく響き合う構造を有している。
本稿では、両作が描く「ダークでグロテスクな宇宙論(コスモロジー)」と「輪廻のシステム」、そして奇しくも共通する「停滞からの鮮烈な復活(あるいは執念のプロット制御)」という創作のドラマについて考察していく。
宇宙の誕生、崩壊、そして狂気の「輪廻」システム
映画『マッドゴッド』の底流にあるのは、文字通りのディストピア地獄である。そこでは、無機質な労働を繰り返す泥人間たち、奇怪な化け物、内臓や血肉が飛び散るグロテスクな光景がこれでもかと並ぶ。しかし、物語の真の凄みは、その地獄の最深部で「新たな宇宙が誕生し、成長し、また崩壊して巡っていく」という、超巨視的な輪廻の構造が描かれる点にある。破壊と死は終わりではなく、次の狂った宇宙の燃料に過ぎないのだ。
この「ダークでグロテスクな世界の構築と、宇宙規模の輪廻システム」は、『終わりなき神話』の核心そのものである。
『終わりなき神話』におけるマルチバースやオムニバース、不確定無限領域へと至る歩みもまた、美しく整えられた天国などではない。神々やデビルたちの激突、預言者オルトが残す世界の記録に遺された無数の世界の断章には、常人の知覚を拒絶し、時には精神を崩壊させるような凄惨で冷徹な概念の破壊(グロテスクな世界の解体)が伴う。そして、一つの宇宙が死を迎え、新たな階層へと再定義(死と再生)されていくプロセスは、『マッドゴッド』が魅せた「終わらない宇宙の輪廻」という神話的ダイナミズムと完全にシンクロしている。
「停滞と復活」、そしてプロットの絶対的な統治力
『マッドゴッド』という作品を語る上で外せないのが、その製作背景である。1990年代に始動しながらも、ハリウッドにおけるCG(デジタル技術)の台頭によって一度は製作が完全に「停滞」し、時代の波に埋もれかけた。しかし、フィル・ティペットの「プロット(ビジョン)への絶対的な執念」は潰えなかった。クラウドファンディングや若きクリエイターたちの協力を経て、数十年の時を超えて奇跡の「復活」を遂げ、世界を震撼させたのだ。
この「停滞を許さぬ執念、そして設計図への絶対的な帰依」という創作思想こそ、『終わりなき神話』のアイデンティティそのものである。
『終わりなき神話』の創作現場においても、世界がどこまでも肥大化していく中で、物語を迷走・停滞させないための「絶対的な規律」が存在する。それは、プロットにない用語、創作設定、創作人物の登場を厳格に禁止し、設計図に準じることを最優先とする冷徹な制御システムだ。
本作には、主人公メシア・クライスト、もう一人の主人公ジェフ・アーガー、そして恋人マリア・プリースト、母親マリア・クライストというコアとなる重要人物たちが精密に配置されている。『マッドゴッド』が狂気的なストップモーションのコマ撮りによって一分の隙もない地獄を現出したように、『終わりなき神話』もまた、厳格なプロット統制という執念によって、カオスなオムニバースの中に一分のブレもない「極上の神話構造」を維持し、常に前へと進撃(復活と拡張)を続けている。
結論
ダークでグロテスクな地獄の底から、宇宙の誕生と輪廻というマクロな神話を紡ぎ出した映画『マッドゴッド』。そして、厳格なるプロットの設計図を武器に、オムニバースという世界のシステムそのものを限界突破し続ける小説『終わりなき神話』。
表現媒体はストップモーションとテキストという対極にありながら、両作の根底にあるのは、「どれほど世界が巨大化し、あるいは混沌に満ちようとも、創作者の強固なプロット(意志)だけが世界を再定義し、真の神話へと昇華させる」という圧倒的なクリエイティビティの証明である。
メシアとジェフ、そして二人のマリアが織りなす因果の糸が、不確定無限領域の最果てでどのような「世界の再生」を果たすのか。枠組みに閉じこもる(鎖国する)ことを拒絶したこの生きた神話は、これからも私たちに、限界なき創造力の地平を魅せ続けてくれるだろう。

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